はじめに
「気づけばプロジェクトが赤字になっていた…」「メンバーの残業が減らないが、一体誰に仕事が偏っているのか分からない」。プロジェクトを率いる立場として、このような悩みを抱えてはいないでしょうか。もし、自社の工数管理がどんぶり勘定になっているとしたら、それは非常に危険なサインです。不透明な工数管理を続けることは、プロジェクトの赤字化やメンバーの疲弊を招くだけでなく、企業の貴重な成長機会を失うリスクに直結します。
この記事では、専門的な知識や高価なツールがなくても、現場で使える工数管理の仕組みを構築できる業務改善プラットフォーム「kintone」の活用法を解説します。この記事を読めば、誰でも簡単にプロジェクトの採算性やメンバーの稼働状況を「見える化」し、データに基づいた的確な意思決定を行う具体的な方法がわかります。
手軽さゆえに、多くの企業でExcelによる工数管理が行われています。しかし、その手軽さは、企業の成長を阻害する深刻な問題を覆い隠しているかもしれません。多くの企業が直面する根深い課題と、kintoneがそれをどう解決するのかを具体的に見ていきましょう。
多くのメンバーにとって、日々の業務時間をExcelに記録するのは、本来の業務とは別の「面倒な作業」です。忙しさを理由に入力を後回しにし、月末にカレンダーを見ながら「あの日は確か、Aプロジェクトの作業を5時間くらいやったはず…」と、曖昧な記憶を頼りにまとめて入力する。この光景は決して珍しくありません。これでは、出来上がったデータは「報告のための数字」でしかなく、正確性は著しく低下します。結果として、その不正確なデータに基づいた分析や判断もまた、信頼性のないものになってしまいます。
【kintoneによる解決策】
kintoneなら、スマートフォンやタブレットから、あらかじめ設定されたプロジェクト名や作業内容を選択式で選ぶだけで、簡単に入力が完了します。移動時間や休憩時間などのスキマ時間に数タップで報告できるため、メンバーの入力負担と心理的抵抗を劇的に軽減し、「後でまとめて」ではなく「発生したその時に」記録する文化が根付きます。これにより、データの鮮度と正確性が飛躍的に向上します。
Excel管理では、マネージャーが各メンバーから個別のExcelファイルを集め、それを一つのマスターファイルに手作業でコピー&ペーストし、集計・分析する必要があります。この作業には毎月数時間、場合によっては数日を費やすこともあります。さらに、ファイルのバージョンが違ったり、計算式が壊れていたりといったトラブルもつきものです。最も深刻なのは、この集計作業が終わるまで、プロジェクトの正確な状況を誰も把握できないことです。問題を発見したときにはすでに対応が後手に回り、「プロジェクトが赤字だと気づいたのは、もう月の終わりだった」という事態に陥りがちです。
【kintoneによる解決策】
kintoneでは、メンバーが入力したデータが即座にダッシュボードのグラフに反映されます。マネージャーはkintoneを開けばいつでも、プロジェクトの進捗、コストの状況、メンバーの稼働状況などをリアルタイムで正確に把握できます。「特定の作業の工数が想定を上回っている」といった問題の兆候を早期に発見し、その日のうちに迅速な軌道修正やサポートを行うことが可能になります。
Excelでは、工数データは「工数管理表」、案件情報は「案件管理表」、顧客情報は「顧客リスト」といったように、データが別々のファイルで管理されがちです。これらのデータは分断されているため、「A社向けのBプロジェクトは、本当に利益が出ているのか?」「設計フェーズに時間がかかりがちなのは、どのタイプの案件か?」といった、経営判断に繋がる深い分析を行うことが非常に困難です。分析しようにも、複数のファイルをVLOOKUP関数などで複雑に組み合わせる必要があり、多大な労力がかかります。
【kintoneによる解決策】
kintoneなら、「工数管理アプリ」「案件管理アプリ」「顧客管理アプリ」などを簡単に連携させ、すべての情報を紐づけて管理できます。これにより、データの分断がなくなり、様々な角度から自由に分析することが可能になります。「どの顧客の、どの案件の、どの作業に、誰が、何時間使ったか」という情報が一気通貫で可視化されることで、単なる業務報告ではなく、次のアクションに繋がる戦略的なインサイトを得ることができるのです。
kintoneで工数管理を行うことで、単に作業時間を記録する以上の、経営に直結する3つの大きなメリットが生まれます。その効果を最大化する鍵は「アプリ連携」です。ここでは、それぞれのメリットがどのように実現されるのかを、より具体的に解説します。
これは、どんぶり勘定から脱却するための最も直接的なメリットです。kintoneでは、まず「案件管理アプリ」に各プロジェクトの受注金額や予算を登録しておきます。次に、「メンバー情報アプリ」に各社員の時間単価(人件費レート)を登録します。日々の業務では、メンバーが「工数実績アプリ」に「Aプロジェクトの設計作業を3時間」といった形で入力します。すると、kintoneは「作業時間 3時間 × Aさんの時間単価」という計算を自動で行い、その作業にかかった人件費を算出します。この人件費がプロジェクトごとにリアルタイムで積み上がっていくため、マネージャーはいつでも「受注金額 – 現在までの総コスト = 現時点での利益」を正確に把握できます。これにより、「このプロジェクト、進捗は順調に見えるが、利益率が想定より低いぞ」といった「赤字の予兆」を早期に発見し、「この作業はもっと効率化できないか」「追加の費用交渉は必要ないか」といった具体的な対策を、手遅れになる前に打つことが可能になるのです。
マネージャーの重要な役割の一つが、チームメンバーの健全な稼働を維持することです。kintoneのトップページ(ポータル)に、「メンバー別 月次総作業時間」や「プロジェクト別 稼働時間ランキング」といったグラフを常に表示させておきましょう。これにより、「Aさんは今月すでに180時間稼働しており、明らかに業務が集中している。一方でBさんにはまだ余力がありそうだ」といった状況が一目瞭然になります。このデータに基づき、マネージャーは「Aさんのタスクの一部をBさんに移管しよう」「この状態が続くなら、新しいメンバーの採用を検討しよう」といった、客観的な根拠のあるリソース配分を行うことができます。これは、特定のメンバーの過負荷による燃え尽き(バーンアウト)を防ぎ、チーム全体のパフォーマンスを最大化するだけでなく、社員のエンゲージメントや満足度の向上にも直結する、極めて重要なマネジメント手法です。
過去のプロジェクトで「実際にどれくらいの工数がかかったか」というデータは、将来の利益を生み出す会社の貴重な資産です。kintoneに蓄積されたデータを活用すれば、この資産を最大限に活かすことができます。例えば、新しいWebサイト構築の引き合いが来たとします。その際、過去に手掛けた類似のプロジェクトをkintoneで検索し、「前回の類似案件では、設計フェーズで100時間、開発フェーズで150時間、合計250時間かかった」という具体的な実績データを参照します。このデータに基づいて見積もりを作成することで、「勘」や「どんぶり勘定」に頼らない、根拠のある価格設定が可能になります。これにより、無謀な安請け合いによる赤字プロジェクトのリスクを劇的に減らし、顧客に対しても説得力のある価格提示ができるため、信頼関係の構築にも繋がります。
「便利そうだけど、システム構築は難しそう…」と感じる必要はありません。kintoneなら、以下の3つのステップで、誰でも簡単に、そして確実に成果の出る工数管理システムを構築できます。
成功の鍵は、とにかくシンプルに始めることです。最初から全ての項目を完璧に管理しようとすると、入力する現場の負担が大きくなり、必ず頓挫します。まずは、関係者(プロジェクトマネージャー、現場メンバー、経理担当者など)を集め、「何がわかれば、経営が楽になるか?」という視点で、管理したい項目を絞り込みましょう。
最低限、以下の5つの項目があれば、工数管理はスタートできます。
• いつ: 作業日(日付フィールド)
• 誰が: 作業者名(ユーザー選択フィールド)
• どのプロジェクトで: 案件名(文字列フィールド or ルックアップフィールド)
• どんな作業を: 作業内容(ドロップダウンフィールドで「設計」「開発」「会議」「資料作成」などを選択式にすると後で集計しやすい)
• 何時間: 作業時間(数値フィールド)
この洗い出しの段階で、「ついでにこれも管理したい」という要望が出てきがちですが、まずは「これだけは絶対に必要」という項目に絞る勇気を持ちましょう。
次に、洗い出した項目を元に、kintoneで2つの基本アプリを作成します。プログラミングは不要で、PowerPointで図形を配置するように、ドラッグ&ドロップで項目を並べていくだけです。
1. 案件(プロジェクト)管理アプリ
これは、全ての情報の「マスターデータ」となるアプリです。ここには、「プロジェクト名」「顧客名」「受注金額」「担当マネージャー」「納期」といった、プロジェクトの基本情報を登録します。このアプリが全ての分析の基点となります。
2. 工数実績アプリ
日々の作業時間を入力していくためのアプリです。ステップ1で洗い出した項目(作業日、作業者、案件名、作業内容、作業時間など)をフィールドとして配置します。ここで極めて重要なのが「ルックアップ機能」の活用です。この機能を使えば、「案件管理アプリ」に登録されているプロジェクト名を検索し、ボタン一つで関連情報(顧客名など)を自動で引っ張ってくることができます。これにより、メンバーはプロジェクト名を手入力する必要がなくなり、入力の手間を省くと同時に、「株式会社」と「(株)」のような表記ゆれによるデータの不整合を完全に防ぐことができます。
最後に、工数実績アプリに蓄積されたデータを「見える化」します。kintone標準のグラフ機能を使い、プログラミング不要で以下のようなグラフを作成し、チームのトップページ(ポータル)に表示させましょう。
• プロジェクト別 総投入工数(円グラフ)
どのプロジェクトに最もリソースを割いているかが一目でわかります。
• メンバー別 月次作業時間(棒グラフ)
各メンバーの負荷状況をリアルタイムで把握できます。
• 作業内容別 工数割合(帯グラフ)
「会議」や「手待ち」といった非生産的な時間にどれだけ費やしているかを分析できます。
準備ができたら、いきなり全社で展開するのではなく、まずは特定のチームで試験的に運用を開始する「スモールスタート」を強く推奨します。実際に使ってもらい、「この項目名は分かりにくい」「この作業分類を追加してほしい」といった現場のフィードバックを元に、設定を柔軟に改善していくことが、形骸化させずに定着させるための最も重要なポイントです。
工数管理の本当の目的は、社員の作業時間を監視したり、マイクロマネジメントしたりすることではありません。それは、これまで「どんぶり勘定」や個人の感覚に頼らざるを得なかったプロジェクト運営から脱却するための、極めてポジティブな経営戦略です。
業務を「見える化」することで、まずプロジェクトごとの正確な採算性が明らかになります。これにより、どの案件が本当に利益を生み出しているのか、どの作業に想定以上のコストがかかっているのかを、客観的なデータに基づいて判断できるようになります。
さらに、特定のメンバーに業務負荷が集中していないか、チーム全体のリソース配分が最適であるかを把握できます。これは、メンバーの燃え尽きを防ぎ、健全で持続可能な労働環境を整える上で不可欠です。
そして最も重要なのは、これらの改善によって生み出された時間とエネルギーを、社員が本来やるべき、より付加価値の高い創造的な仕事へと振り向けることです。
私たちシステムクレイスでは、お客様の業務を深く理解し、この「見える化」を実現することで、どんぶり勘定から脱却し、利益体質の強化と働きやすい環境づくりを両立させるための具体的なご提案が可能です。ぜひ一度システムクレイスまでお問い合わせください。
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