はじめに
「月末の数日間は、各営業担当者から送られてくるExcelファイルの売上集計作業だけで終わってしまう…」 「担当者の『大丈夫です』という言葉を信じるしかないが、月末になると急に『失注しました』という報告が上がり、売上予測が大きく狂ってしまう…」
経営者や管理職の方であれば、このような、胃が痛くなるような課題に一度は直面したことがあるのではないでしょうか。
多くの企業で当たり前になっているExcelによる手作業の売上管理。それは、単に「時間がかかる面倒な作業」というだけではありません。不正確なデータと遅れた報告は、経営判断を鈍らせ、市場の変化への対応を遅らせます。これは、知らず知らずのうちに会社の成長スピードを落とし、貴重なビジネスチャンスを逃し続ける、静かで深刻な経営リスクなのです。あなたの会社の売上管理は、未来を創るための羅針盤ではなく、過去を振り返るだけのバックミラーになっていませんか?
この記事では、そのバックミラーを”未来を映すダッシュボード”に変えるための具体的な手法を解説します。高価な専門ツールではなく、現場主導で柔軟に構築できる業務改善プラットフォーム「kintone」を活用し、リアルタイムで正確な売上管理の仕組みを構築する方法を、導入の3ステップから成功のコツまで、徹底的に解説します。この記事を読めば、勘と経験に頼る経営から脱却し、データに基づいた迅速な意思決定、いわゆる「データドリブン経営」への力強い第一歩を踏み出すことができるはずです。
多くの企業で当たり前のように行われているExcelでの売上管理。しかし、その手軽さの裏には、企業の成長を阻害する5つの大きな課題が潜んでいます。
各営業担当者が個別に管理する「売上管理表_田中.xlsx」「売上見込_鈴木.xlsx」といったExcelファイル。月末になると、マネージャーはそれらのファイルをメールや共有フォルダから探し集め、一つのマスターファイルに手作業で転記・集計するという、時間と忍耐を要する作業に追われます。この過程では、コピー&ペーストの範囲ミスや、担当者ごとに微妙に違うフォーマットによる計算式のズレが頻繁に発生し、報告される数字の信頼性が根本から損なわれる大きな原因となります。「売上管理表_v3_最新版_final.xlsx」のようなファイルが乱立し、どれが本当に正しい最新のデータなのか誰にも分からなくなることも日常茶飯事です。
手作業での集計では、会社の正確な業績を把握できるのは早くても翌月の半ば。これでは、まるでバックミラーだけを見て車を運転しているようなものです。市場の変化や競合の動き、予期せぬトラブルに対して迅速な対応を取ることはできません。「月の半ばで目標達成が厳しいと分かっていれば、テコ入れのためのキャンペーンを企画したり、重点顧客へのアプローチを強化したり、もっと早く手を打てたのに…」といった後悔に繋がります。問題が発生していても発見が遅れ、気づいたときには手遅れ、という事態にもなりかねません。
多くのExcel管理では、将来の売上予測は担当者の「勘と経験」という、極めて主観的な情報に大きく依存しています。「この案件は確度80%です」と報告されても、その80%の根拠は担当者の頭の中にしかありません。楽観的な担当者の80%と、慎重な担当者の80%では、その意味は全く異なります。このような曖昧な報告をただ積み上げるしかなく、客観的なデータに基づいた確度の高い情報が一元化されていないため、結果として予実管理は形骸化し、「目標達成のために、今どの案件に注力すべきか」という具体的なアクションに結びつきません。
売上データは営業部、請求書の発行状況は経理部、と別々のExcelファイルで管理されているケースは非常に多く見られます。このデータの分断が、「受注して売上計上したのに、経理への連携が漏れて請求書を出し忘れていた」「入金が遅れている顧客だと知らずに、営業担当者が次の大型提案をしてしまった」といった、会社のキャッシュフローと信用に直接的な悪影響を及ぼす深刻な問題を引き起こします。部門間の連携が取れていないことで、お客様に不安を与え、信頼関係を損なう原因にもなります。
Excelでは、データを多角的に分析することに限界があります。ピボットテーブルなどを使えばある程度の分析は可能ですが、それには専門的なスキルと多くの時間が必要です。結果として、「どの商品が本当に利益を稼いでいるのか」「どの顧客層がリピート購入してくれているのか」「なぜトップ営業のAさんは、Bさんと比べて受注率が2倍も高いのか」といった、経営の舵取りに不可欠な戦略的な問いに対する答えを得ることができません。結局は「売上」という一面的な数字しか見ることができず、データに基づいた次の具体的な打ち手を考えることができないのです。
kintoneは、Excel管理が抱えるこれらの根深い課題を、根本から解決する3つの力を秘めています。
kintoneでは、商談の発生から受注、請求、入金に至るまで、売上に関するあらゆる情報を一つのプラットフォーム上で一元管理できます。例えば、営業担当者が外出先からスマートフォンで「A商事の案件、確度BからAに上がりました」と更新すると、その瞬間にマネージャーのPC画面の売上予測グラフが自動で変動します。これにより、経営者やマネージャーは、わざわざ担当者に状況を確認したり、月末に集計作業を行ったりすることなく、いつでもどこでも、会社の最新の業績をリアルタイムで正確に把握できるようになります。会議の直前に慌てて資料を作成する必要はもうありません。会議では、常に最新のデータが表示されたkintoneの画面を全員で見ながら、次のアクションを議論することに集中できます。
多くのExcel管理では、売上予測は担当者の「勘」に頼らざるを得ませんでした。しかし、kintoneではデータに基づいた客観的な予測が可能になります。案件管理アプリに登録された個々の商談の「受注確度(S, A, B, Cなど)」や「受注予定日」「金額」といった情報から、AIや複雑なマクロに頼ることなく、精度の高い売上予測を自動で算出します。例えば、「S確度案件の90%、A確度案件の70%、B確度案件の50%を合計した、より現実的な売上予測」といった加重平均での見込みを自動計算することも可能です。目標金額に対する現在の進捗状況(予実対比)もリアルタイムで可視化されるため、「目標達成まであといくら足りないのか」「どの確度の案件をクロージングすれば達成できるのか」といった具体的なアクションプランを、データに基づいてタイムリーに実行できます。
kintone標準のグラフ機能を活用すれば、専門的な知識がなくても、クリック操作だけで簡単にデータを分析し、これまで見えなかったビジネスの傾向を掴むことができます。例えば、以下のような分析が可能です。
• 「商品・サービス別売上構成」グラフ: 「商品Aは売上は大きいが利益率は低い。一方で商品Bは売上は小さいが利益率が高い、我が社の隠れた稼ぎ頭だ」といった、プロダクトミックスの最適化に繋がるインサイトを得られます。
• 「担当者別売上ランキング」グラフ: 単に順位をつけるだけでなく、「トップ営業のAさんは、B業界からの受注率が特に高い」といった、個々の強みや成功パターンを可視化し、組織全体で共有・展開できます。
• 「失注理由分析」グラフ: 失注した案件の理由(「価格」「機能」「競合」など)を集計することで、「競合のC社に価格で負けることが多い」といった弱点を客観的に把握し、価格戦略の見直しや商品開発に活かすことができます。このように、データに基づいた科学的な経営戦略の立案に役立てることで、「どの分野に投資すべきか」といった未来の意思決定を力強くサポートします。
「便利そうだけど、設定が難しそう…」と感じる必要はありません。以下の3つのステップで、誰でも簡単に、そして自社にフィットした売上管理の仕組みを構築できます。
まず、「何を可視化すれば、経営判断の質が上がるのか」を関係者で明確に定義します。最初から全てを管理しようとすると、現場の入力負荷が増え、プロジェクトが頓挫する原因になります。「月次売上推移」「受注残高」「担当者別の売上達成率」など、自社の成長にとって最も重要だと考える経営指標(KPI)を3つ程度に絞り込むことが、成功への第一歩です。このKPIが、後述する経営ダッシュボードの設計図となります。
売上管理の自動化の核となる、以下の3つのアプリを作成し、互いに連携させます。プログラミングは不要で、ドラッグ&ドロップで項目を配置していくだけです。
1. 案件管理アプリ: 全ての情報の起点となる、最も重要なアプリです。ここには、「顧客名」「案件名」「提案商品」「受注確度」「見込み金額」「受注予定日」といったフィールドを配置します。受注確度はドロップダウン形式にして、「S:90%」「A:70%」「B:50%」といった選択肢を用意すると、後の予測精度が上がります。
2. 請求管理アプリ: 案件管理アプリで「受注」となった情報をもとに、請求書データを作成します。「請求日」「請求金額」「入金予定日」「請求書PDFの添付」といったフィールドを用意します。ここで重要なのが「アクション機能」です。案件管理アプリの画面に「請求データを作成」というボタンを設置し、クリックすると顧客名や金額といった情報が自動で請求管理アプリにコピーされるように設定します。これにより、転記ミスや請求漏れを完全に防ぐことができます。
3. 入金管理アプリ: 請求に対して入金があったかどうかを管理します。「入金日」「入金額」といったフィールドに加え、「ステータス」フィールドを設けて「未入金」「入金済み」「一部入金」といった状態を管理します。請求管理アプリと連携させ、入金が確認されたら請求管理アプリのステータスも自動で「入金済み」に更新されるように設定すると、二重管理の手間が省けます。
各アプリに蓄積されたデータを集約し、ステップ1で決めたKPIが一目でわかるグラフを作成します。そして、会社のトップページとなる「ポータル」にそれらのグラフを配置します。これにより、kintoneにログインするだけで経営状況を瞬時に把握できる、自社だけの「経営ダッシュボード」が完成します。
例えば、以下のようなグラフを配置します。
• 当月の売上実績と目標達成率(ゲージグラフ)
• 受注確度別の見込み金額(積み上げ棒グラフ)
• 担当者別売上ランキング(棒グラフ)
準備ができたら、いきなり全社で展開するのではなく、まずは一部のチームからスモールスタートで運用し、「このグラフはもっとこう見たい」「この入力項目は不要だ」といった現場の意見を取り入れながら、改善を重ねていくことが定着の鍵となります。
売上管理の仕組みを最適化することは、単に集計作業の時間を短縮するといった業務効率化ではありません。それは、これまで勘と経験に頼りがちだった経営判断を、客観的なデータに基づく科学的なものへと変革し、企業の未来を左右する意思決定の質そのものを高めることです。リアルタイムに業績を把握できることで、市場の変化に迅速に対応し、新たなビジネスチャンスを掴む。これこそが、変化の激しい時代を勝ち抜くための、強固な経営基盤を築く「攻め」の経営戦略です。
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